Content コンテンツ

春の養生~春を美しく健やかに過ごすコツ~

東洋医学の根幹をなす中医学では季節の養生をとても大切にしました。その季節の養生を理論編とレシピ編にわけ解説していきます。今回は春はこんな季節という理論編。理論といっても難しい話ではなく<春>という季節の持つ特徴をイメージできるようなお話です。中医学は陰陽五行をベースに持つ中国古代思想。医学という分野を超えて自然の美しさと身体の不思議さを融合させた学問です。その奥深さを味わいつつ実生活に活かすコツをお伝えします。

1, 季節の養生といういう考え方

春は肝の季節。春の象徴である桜の花。
東洋医学の根幹をなすと言われる中医学はなんと今から2000年前にすでに『黄帝内経』という身体の整え方が書かれた本がすでにまとめられていました。
薄っぺらな健康本ではなく本格的な医学書であり素問81編、霊枢81編の合計162編からなる超大作でした。東洋医学の<未病>という考え方はすでにこの本で紹介されています。今回は中医学の考え方の基本になっているこの『黄帝内経』をもとに季節の養生を紹介します。

養生の基本は自然のリズムに沿った過ごし方

青色が美しい春の花。
現代よりも医学がはるかに未発達であったであろう2000年前の人々は100歳を超えても衰えることがなかったと書かれています。そこには自然のリズムに沿った生活で季節の変化に合わせて身体をやしなう<養生>という考え方がありました。
春には春の特徴をよく理解し、活発になる臓器を養うことで次に来る夏を健やかにすごせる心と身体を作る。
夏には夏の特徴をよく理解し、活発になる臓器を養うことで次に来る秋を健やかに過ごせる心と身体を作る。
そんな風に季節を活用してその自然のリズムに沿った過ごし方を<養生>と呼びます。

養生を大切にする暮らしは四季のある日本にぴったり

春は肝の季節。このグリーンのようにのびやかな性質をもつ。
中医学は古代中国でうまれ朝鮮半島を経て日本に伝来したと言われています。中医学は季節の養生をとても大切にしていますが、四季の変化が分かりやすい日本人にはその考え方は肌感覚としてとてもよく理解できるものだと感じます。
陰とか陽とか、五行とか…日常生活では聞きなれないことが多く登場する中医医学は難しい、覚えることが多いと嫌厭されがちです。しかし、四季のある国日本だからこそ理解できる感覚的な部分やイメージを繋いで連想ゲームのようにして考えるちょっとしたコツをつかんでしまえば、暗記ばかりで難しい中医学のイメージが一変し、身近で親しみやすくどんどん広がってゆく豊かな世界であるとに気が付くでしょう。

2000年前の知恵を現代に活用

ここでは中医学における基本的な春の養生の考え方をお伝えするとともに、日常生活にすぐに活用できるヒントをまとめてみました。なお、今回お伝えする<春の養生>の考え方をもとにしたレシピは別記事で紹介しますのでそちらもあわせて目を通していただければと思います。
2000年前の知恵が現代の私たちの生活を豊かなものにしてくれることにワクワクしながら春の養生、スタートしましょう。

2, 春(肝の季節)はのびやかに育つ新緑のイメージ

新緑の森の中のイメージ
スタートは五行からです。「いきなり五行!?」とい言われてしまいそうですが中医学の根本をなす思想で陰陽とあわせて五行があります。五行の要素は「木・火・土・金・水」。昔の中国の人は世界はこの5つの要素でできていると考え様々な現象にこの五行を当て考えました。
季節も例外ではなく、5つの季節があります。そして今日話する春は五行でいうところの<木>に当たり、この時期活発になる臓器は<肝>(働きは後ほど説明します)です。この2つを念頭に置き、早速イメージしてみましょう。

のびやかに育つ新緑のイメージ

春の朝日を浴びて気持ちよさそうに伸びをする女性
木というのは公園や街にある私たちが日常的に目にする木のことです。
春、新緑が美しくのびる大きな木を想像すると、木の幹が伸び上の方には葉っぱがしげり
春風に吹かれてさわさわ揺れているのが想像できます。のびのびと葉っぱを伸ばす様子はとても気持ちがいいですね。
このイメージがそのまま肝の養生につながります。
肝の持つ性質として<のびやかに上昇・発散>というものがあります。肝の気を健やかに保つには新緑の緑が気持ちよく揺れるように自由にさせてあげるというのが大切。
春は衣服を緩め、髪をほどき、ストレスをためないように心を自由にさせておくことが大切です。そうすることによって肝が元気になります。

春の不調は上半身に起こりやすい

春に不調が出やすい喉と鼻に不調をきたす女性
また、肝の不調は新緑が茂るように上の方(身体の上半身)に症状が出やすく、その症状は葉っぱが揺れるようにさわさわと移ろいやすい。(不調の場所が移動しやすい)と言われています。また、その症状は<かゆみ>として現われることが多いのです。
温かい春風は気持ちを発散させてくれる一方、当たりすぎると風邪(ふうじゃ)となり身体に害を及ぼします。
春に起こりやすい花粉症も上半身のかゆみ(のどや鼻、目)であり、場所が定まらない皮膚の不調、フラフラするめまいや頭痛なども春特有の不調と言えるでしょう。

春(肝の季節)はイライラ、くよくよが出やすい時期

肝は心の安定と深くかかわりがある臓器です。また、肝は怒りという感情を担当しています。春は肝が活発になり働きやすい季節ではあるのですが、新学期や新しい生活のスタートなどで緊張したりストレスがかかったりしやすい時期でもあります。肝はもともとのびやかで自由な性質。それができない環境がつづくとイライラしたり、くよくよしたり…という症状になって現れます。
忙しい時期ではありますが、オーバーワークにならない工夫とストレスをためない生活を心掛け、以下の項で紹介する肝を養う食材を活用してみてください。

中医学用語で春の特徴を表すと…

ここまでお話した肝の特徴ですが、中医学の教科書だと「肝の病気は軽揚開泄で上半身を傷めやすく、善行数変の性質により発病が急で変化が早い。」という表現で表してあります。さすがにこんな風に書かれると、漢字ばっかりで理解するのが難しいのですが、春に葉をのばす大きな木をイメージすれば、その性質が分かりやすいように思います。

3, 春に活発になる<肝>の2つの働き

肝を養う季節、春の象徴であるピンク色の桜
前項では春は肝が活発になる季節とお話をしました。
立春から5月までの期間は肝にとって1番働きやすい季節です。
中医学における肝は西洋医学における肝臓とは概念が違います。肝臓そのものをさすだけでなくより広い範囲での働きがあります。
ここでは肝の働き2つについてみていきましょう。

<疏泄(そせつ)作用>と<蔵血(ぞうけつ)作用>

肝の働きは大きく2つ。
1つは疏泄(そせつ)作用とよばれ、気や血の流れを円滑にして体の隅々まで届ける働きです。もう1つは蔵血(ぞうけつ)作用といって必要なところに血を貯蔵し血量をコントロールする働きです。
肝の働きが正常であればこの2つの働きもスムーズになるのですが、肝がうまく働かない場合やオーバーワークしてしまったときは不調が現れます。
不調が現れないのが1番なのですが不調の時のサインをいち早くキャッチして改善することができれば、ご自身の身体との信頼関係もよりアップしますね。次の項目では肝の不調によって現れるサインを解説します。

4, 肝が不調になると現れるサイン

肝の不調があらわれやすい爪
肝をはじめとする臓器は身体の中にありますからその様子を直接目にすることはできません。しかし、中医学では<望診>といって顔にあらわれる症状を読み解くことで臓器の状態を判断する手法があります。身体の見える部分に現れるサインから体の中にある見えない肝の状態を知ることができるのです。

肝の不調は目に現れる

<開口口(かいこうこう)>と呼ばれるものですが、その部分をみるとこの臓器の状態が分かるよという部位のことで肝の開口口は<目>です。肝が好調であれば目は適度に潤いがありますが、肝に負担がかかってくるとドライアイやかゆみ、かすみ、目の見えにくさが現れます。
産後によく目を酷使するなと言われるのは出産でたくさんの血液を失い、肝の蔵血作用が極端に低下した中でさらに目を酷使することで肝に負担がかかり回復が遅くなるからです。昔の方はよくわかっていたんです。

爪の状態から肝の状態を知る

あわせて<肝の華は爪にあわれる>といわれ爪の状態からも肝の状態を知ることができ、中央がへこんだり、変形したり、爪がよく割れる場合は肝の機能が低下しているサインです。
さらに前項で話した<疏泄作用>と<蔵血作用>という肝のもつ2つの作用。
気の巡りが低下すれば、気滞といって鬱のような心の不調が現れ、血のめぐりが低下すれば、生理の不調が現れます。
このように目、爪、気と血という項目をヒントに肝の状態を把握することができます。

5, 食卓で活躍する肝を養う味と色

春、肝を養う食べ物である山菜
不調があった場合はどうしたらいいのでしょう?
ここでは毎日楽しみにしている食事で肝の不調を改善できるヒントをお伝えします。
肝を養う色は青。味は酸味です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

肝を養うのは青色(濃い緑)の食べ物

まずは色から。青というのは緑(特に濃い緑)のことです。春にできる濃い青の食べ物を創造してください。たくさんあると思います。
ブロッコリー、春菊、小松菜、ニラ、青梗菜、菜の花、ヨモギ、ほうれん草、山菜などなどがありますね。
どれも春先に1番美味しい時期を迎える野菜です。春が旬の野菜には春に活発になる肝を養う力が宿っています。

肝を養う味は酸味

さらに肝を養う味である酸味。
レモンなどの柑橘系果汁、梅干し、日本ではあまりなじみがないのですがライチやすももも酸味に当たります。
春先にでまわる青々した旬の野菜を酢の物やさっぱりしたドレッシングなどのさっぱり味でいただくのが春にはおススメです。
普段の飲み物でも炭酸水にレモン果汁を合わせたり紅茶にレモン果汁を入れたりすることで肝の養生になります。
春の養生におススメのレシピ等は別記事で紹介させていただきます。

6, 肝の弱りチェックリスト

肝が不調だとおこりやすい肩こりに悩む女性
最後に肝の弱りチェックリストをまとめてみました。
下記のような症状がある場合は肝が弱り気味のサインです。
参考までにご活用ください。

① 生理痛がひどく、月経前症候群がある
② 爪がもろくなったり変形したり、なんとなく色が青っぽい
③ 月経の経血に血の塊が混じる
④ ドライアイや目の疲れ、まぶたの痙攣がある
⑤ イライラする、くよくよしたり、なかなか決断できないことが多くなった
⑥ 両脇に違和感や痛み、つっぱるような不快感がある
⑦ 首や肩、背中が凝りやすい
⑧ 寝つきが悪かったり、夜中の1時から3時に睡眠が浅くなりやすい
⑨ 乾燥肌、シミなどの肌トラブルに加え髪の毛に潤いがなくなった
⑩ 顔色が青白く、目の周りにクマができるようになった

また、ご自身では判断できない場合や相談したい内容がある場合は食養相談やコンサルティングをご活用ください。

<望診・食養相談>

<コンサルティング>

7, 春の養生まとめ

春の朝日を浴びて健やかな気持ちの女性
ここまで春の養生(理論編)と題して中医学の考え方を交え春の養生を6つの項目でお話をしてきました。中医学は難しい専門用語を暗記する苦行ではなく、イメージを自由につなげて深めていく感性的な学問です。2000年前の方たちは美しい自然の姿を自分の身体に当てはめて理解していったのかもしれません。そこから生まれた中医学の身体感は自然の美しさそのものです。
そんな視点を頭のどこかにおいておくことで、今まで難解だと思っていた中医学に違った一面を見つけられるような気がします。机上の空論にすることなく日々の食卓で、日々の暮らしで役立てていってほしいと思います。
また、季節の養生に関しては毎月開催の気功教室や瞑想会でもお話しています。自然のリズムを知り、そのリズムに沿った生き方はとても心地よく健やかなものです。そんな自然のリズムに沿った暮らし方のヒントをご提案しています。

<気功教室>

<瞑想会>